業務フロー

SAP PS(プロジェクト管理)入門|WBS・予算管理・決済までの全体像

目次

はじめに

SAP PS(Project Systems)は、プロジェクトの計画・実行・管理・決済を一気通貫で扱うモジュールです。建設業・エンジニアリング・コンサルティングなど、プロジェクト単位で原価を管理する業種で広く使われています。

他のモジュールが「日常の繰り返し業務」を扱うのに対し、PSは「期間限定で目的が明確な活動」を管理する点が異なります。たとえば、工場の建設プロジェクト、ITシステムの導入プロジェクト、新製品の開発プロジェクトなどが対象です。

この記事では、PSモジュールの基本概念から業務フロー、他モジュールとの連携、そしてCO内部指図との使い分けまでを整理します。

SAPモジュール全体の関係についてはSAPの組織構造を理解するも参考にしてください。

PSモジュールの全体像

PSモジュールは大きく分けて以下の機能を持っています。

機能領域内容主なTコード
プロジェクト構造WBS(作業分解構造)の作成・管理CJ20N, CJ01
原価計画WBS要素ごとの計画原価の設定CJ20N
予算管理予算配賦と利用可能性チェックCJ30, CJ40
実績管理工数・資材・外注費の実績収集CJ20N, KB21N
進捗管理マイルストーン・ステータス管理CN41
決済プロジェクト原価の配賦・決済CJ88, CJ8G

マスタデータの階層構造

PSモジュールの中核はWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構造)です。プロジェクトを階層的に分解して管理します。

flowchart LR
  subgraph PS["プロジェクト構造"]
    PD["プロジェクト定義
CJ01"] WBS1["WBS要素 Lv1
設計フェーズ"] WBS2["WBS要素 Lv1
施工フェーズ"] WBS1A["WBS要素 Lv2
基本設計"] WBS1B["WBS要素 Lv2
詳細設計"] WBS2A["WBS要素 Lv2
基礎工事"] WBS2B["WBS要素 Lv2
建築工事"] end PD --> WBS1 PD --> WBS2 WBS1 --> WBS1A WBS1 --> WBS1B WBS2 --> WBS2A WBS2 --> WBS2B
凡例 親子関係(上位から下位への分解) [ ] WBS要素またはプロジェクト定義

3つのマスタデータ

PSで押さえるべきマスタデータは3つあります。

プロジェクト定義は、プロジェクト全体の器です。プロジェクトコード、開始/終了日、責任者、会社コード、管理領域などの基本情報を持ちます。Tコード CJ01 で作成します。

WBS要素は、プロジェクトを分解した管理単位です。原価の計画・予算・実績はこのWBS要素に紐づきます。フェーズ別(設計→施工→テスト)や機能別(建築→電気→空調)など、管理したい切り口で階層化します。

ネットワーク/アクティビティは、作業の順序や依存関係を定義する構造です。「基本設計が終わらないと詳細設計に入れない」といったスケジュール上の制約を表現します。WBS要素に紐づけて使いますが、スケジュール管理が不要なプロジェクトでは省略することもあります。

業務フロー

PSの業務フローは6つのステップに分かれます。

flowchart LR
  subgraph PLAN["計画"]
    A["STEP1
プロジェクト作成
CJ20N"] B["STEP2
原価計画"] C["STEP3
予算配賦
CJ30"] end subgraph EXEC["実行"] D["STEP4
実績計上"] E["STEP5
進捗管理
CN41"] end subgraph CLOSE["決算"] F["STEP6
決済
CJ88"] end A --> B --> C --> D --> E --> F
凡例 処理の流れ [ ] 業務ステップ 英数字コード = Tコード(SAPの操作コマンド)

STEP 1: プロジェクト作成(CJ20N)

CJ20N(プロジェクトビルダ)はPSの中心的なTコードです。プロジェクト定義の作成、WBS要素の階層構築、ネットワーク/アクティビティの設定をすべてこの1画面で行えます。

プロジェクトの作成では、プロジェクトプロファイルを選択します。プロファイルには、ステータス管理の方式やデフォルト値が定義されています。これを間違えると後工程のステータス遷移が想定通りにいかないため、プロファイルの選択はプロジェクト開始時に正しく行う必要があります。

STEP 2: 原価計画

WBS要素ごとに計画原価を設定します。計画の方法は主に2つあります。

手動計画は、WBS要素に直接金額を入力する方法です。大枠の予算枠が先に決まっているケースで使います。

Easy Cost Planning(簡易原価計画)は、原価モデルを使って見積もる方法です。たとえば「エンジニア単価 × 工数 × 月数」のような計算式で計画原価を算出します。ここで作成した計画をもとに、MMモジュールへの購買依頼を自動生成することも可能です。

STEP 3: 予算配賦(CJ30 / CJ40)

原価計画と予算は別物です。原価計画が「いくらかかりそうか」の見積もりであるのに対し、予算は「いくらまで使ってよいか」の承認済み金額です。

CJ30で予算の原本を配賦し、CJ40で追加予算や予算振替を行います。

予算にはアベイラビリティコントロール(利用可能性チェック)を設定できます。これを有効にすると、予算超過時に警告またはエラーを出して発注や実績計上を止められます。予算統制なしにPSを使うとプロジェクト原価が青天井になるリスクがあるため、実務では必ず設定します。

STEP 4: 実績計上

プロジェクトの実行段階では、さまざまな実績がWBS要素に集まります。

工数実績はTコード KB21N(CO活動タイプ配賦)で計上します。社員の作業時間を原価としてプロジェクトに付け替えます。

資材費はMMモジュールの購買プロセス(発注→入庫→請求書照合)を通じてWBS要素に自動計上されます。購買依頼や発注伝票にWBS要素を指定することで、原価がプロジェクトに紐づきます。

外注費も同様に、MMの発注プロセスを経由してWBS要素に集約されます。

STEP 5: 進捗管理(CN41)

CN41(構造一覧)でプロジェクトの全体構造を俯瞰しながら、各WBS要素のステータスや計画/実績の差異を確認します。

差異分析にはTコード S_ALR_87013543 を使います。計画原価・予算・実績・コミットメント(発注済み未入庫)を一覧で比較でき、どのWBS要素で予算超過が起きているかを特定できます。

STEP 6: 決済(CJ88 / CJ8G)

プロジェクトが完了(または期間決算時点)で、WBS要素に集まった原価を受入先に配賦します。これが決済です。

受入先は、原価センタ、固定資産、収益性分析(CO-PA)などが指定できます。たとえば建設プロジェクトの場合、完了した建物を固定資産として資産計上し、プロジェクト原価を取得価額に振り替えます。

CJ88は個別プロジェクトの決済、CJ8Gは複数プロジェクトの一括決済に使います。決済はCOの期末決算処理の一部であり、COモジュールの業務フローと密接に連携します。

他モジュールとの連携

PSは単独で動くモジュールではなく、周辺モジュールとのデータ連携が前提です。

flowchart LR
  subgraph PS_MOD["PS"]
    WBS["WBS要素"]
  end
  subgraph FIN["管理会計・財務"]
    CO_MOD["CO
原価センタ配賦"] FI_MOD["FI
仕訳転記"] end subgraph LOG["ロジスティクス"] MM_MOD["MM
購買・在庫"] SD_MOD["SD
受注・請求"] end WBS -->|決済| CO_MOD CO_MOD -->|転記| FI_MOD MM_MOD -->|実績計上| WBS SD_MOD -->|売上計上| WBS
凡例 データ連携の方向 [ ] SAPモジュール

各モジュールとの連携ポイントは以下のとおりです。

COモジュールとは最も深い連携があります。原価計画はCOの原価要素を使い、決済先として原価センタやCO-PAを指定します。PSの決済はCOの期末処理フローに組み込まれます。

FIモジュールには、決済を通じて仕訳が転記されます。資本投資プロジェクトの場合は固定資産(AA)にも連携し、取得価額として資産計上します。

MMモジュールとは、資材調達のフローで連携します。購買依頼・発注・入庫・請求書照合の各伝票にWBS要素を指定することで、調達コストがプロジェクトに自動集約されます。

SDモジュールとは、プロジェクト売上の計上で連携します。受注伝票にWBS要素を紐づけることで、売上をプロジェクト単位で追跡できます。マイルストーン請求(成果物納品ごとに請求)の仕組みもあります。

CO内部指図との使い分け

プロジェクトの原価を管理する方法として、PSの他にCOの内部指図(Internal Order)があります。「どちらを使うべきか」は現場でよくある疑問です。

観点PS(プロジェクト管理)CO内部指図
構造階層型(WBS要素を多段に分解)フラット(1つの指図 = 1つの原価集約)
向いている案件大規模・長期・多フェーズ小規模・短期・単発
予算管理アベイラビリティコントロールあり簡易的な予算チェック
スケジュール管理ネットワーク/アクティビティで対応なし
レポート階層別の詳細分析が可能指図単位の集計
設定の複雑さ高い(プロファイル・ステータス等)低い

判断基準はシンプルです。フェーズ分けして原価を追跡する必要があるならPS、1つの箱に原価を集めるだけなら内部指図です。

たとえば、展示会出展の費用管理なら内部指図で十分です。一方、半年かけてシステムを構築するプロジェクトで設計・開発・テスト各フェーズの原価を別々に追跡したい場合はPSが適しています。

実務では、最初は内部指図で運用していた企業がプロジェクトの複雑化に伴いPSに移行するケースも多く見られます。

主要Tコード一覧

Tコード機能用途
CJ20Nプロジェクトビルダプロジェクト構造の作成・変更(最も使用頻度が高い)
CJ01プロジェクト作成プロジェクト定義の新規作成
CJ02プロジェクト変更プロジェクト定義の変更
CJ03プロジェクト照会プロジェクト定義の参照
CJ30予算原本予算の初期配賦
CJ40予算変更追加予算・予算振替
CN41構造一覧プロジェクトのWBS階層を一覧表示
CN42プロジェクト一覧プロジェクト定義の一覧
CJ88個別決済単一プロジェクトの決済実行
CJ8G一括決済複数プロジェクトの一括決済
KB21N活動配賦工数実績のプロジェクト計上
S_ALR_87013543差異分析計画/予算/実績/コミットメントの比較

主要Tコードの全体像はSAP主要トランザクションコード一覧も参照してください。

よくある疑問

Q. PSは中小企業でも使うのか A. 大企業向けのイメージがありますが、プロジェクト型ビジネス(受託開発、建設、コンサル等)であれば企業規模に関係なく有効です。ただし、年間数件しかプロジェクトがない場合はCO内部指図で代替できることが多いです。

Q. WBSの階層はどこまで深くすべきか A. 実務上は2~3階層が一般的です。深くしすぎると運用負荷が高くなり、浅すぎると分析の粒度が不足します。「定期的にレビューする管理単位」がWBS要素の適切な粒度です。

Q. PSとPPモジュールの違いは何か A. PPモジュールは「繰り返し生産される製品の製造管理」、PSは「一回限りのプロジェクトの管理」が主な用途です。ただし、受注生産(MTO)で両方を使うケースもあり、その場合はPSのWBS要素とPPの製造指図を連携させます。

まとめ

  • SAP PSはプロジェクト単位の原価管理を実現するモジュールで、建設・エンジニアリング・コンサルティング等のプロジェクト型業種で使われる
  • WBS(作業分解構造)でプロジェクトを階層分解し、各WBS要素に原価の計画・予算・実績を紐づける
  • 業務フローは「プロジェクト作成 → 原価計画 → 予算配賦 → 実績計上 → 進捗管理 → 決済」の6ステップ
  • CO/FI/MM/SDの各モジュールと連携して原価データを収集・決済する
  • 小規模・単発ならCO内部指図、大規模・多フェーズならPSという使い分けが基本

PSモジュールを含むSAPの全体像を先につかんでおくと、CO/FI/MMとの連携が見えやすくなります。約2時間の動画でS/4HANAの主要機能と特徴を一通り押さえられます。

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