業務フロー

SAP QMモジュール 業務フロー完全解説|品質管理の受入検査から不適合処理まで

目次

はじめに:QMサイクルとは

SAPのQM(Quality Management)モジュールは、調達から製造、出荷までの各工程で「品質を作り込み・記録し・問題があれば是正する」ための仕組みです。本記事ではこの一連の流れをQMサイクル(受入→工程内→出荷→不適合処理→監査)と呼び、各ステップの業務的な意味とSAP上の操作をセットで整理します。

QMはMMやPPと密接に連携するため、購買フローを把握したい方はMM業務フロー、生産フローを把握したい方はPP業務フローも合わせて読むと、検査ロットがどこで生まれるかが立体的に理解できます。

QMモジュール全体像

フェーズ目的主なTコード関連モジュール
マスタ整備検査基準・検査特性・検査計画を準備QP01 / QS21 / QS41
受入検査購買品が仕様を満たすか確認QA32 / QA11MM
工程内検査製造途中で品質を作り込むQA32 / CO11NPP
出荷検査顧客へ出す前の最終確認QA32 / VL02NSD
不適合管理問題発生時の記録と是正QM01 / QM02MM/PP/SD
品質監査仕入先・工程の定期評価QA40 / MCXAMM
flowchart LR
  M[マスタ整備
QP01] --> R[受入検査
QA32] R --> P[工程内検査
QA32] P --> S[出荷検査
QA32] S --> N[不適合管理
QM01] N --> A[品質監査
QA40]
凡例 標準フロー [ ] 業務ステップ 英数字コード = Tコード(SAPの操作コマンド)

STEP 0:マスタデータの整備

検査業務はマスタが命です。検査計画・検査特性・サンプリング手順がそろっていないと、検査ロット自体が生成されません。

検査特性マスタ(QS21)

「外径」「重量」「外観キズ有無」など、何を測るかを定義します。数値特性(計量値)と定性特性(合否)の2種類を使い分けます。why so:複数の検査計画で同じ特性を再利用できるようにするためです。so what:特性は必ずマスタ化し、検査計画ごとに直接記述しないこと。直接記述すると後から仕様変更があった際、全計画を書き換える羽目になります。

サンプリング手順(QDV1)

全数検査か抜取検査か、AQLいくつかを定義します。逆に言えば、この設定がないと「ロット数量1000のうち何個検査するか」が決まらず、検査員が現場判断に頼る属人化が起きます。

検査計画(QP01)

品目ごとに、どの工程で・どの特性を・どのサンプリングで検査するかを定義する中核マスタです。検査タイプ(01:受入、03:工程内、04:出荷、など)と紐づけます。

STEP 1:受入検査(購買品の品質確認)

購入した原材料・部品が仕様通りかをチェックする工程です。MMの入庫(MIGO)時に、品目マスタの「QM調達」タブで検査タイプ01がアクティブになっていれば、SAPが自動で検査ロットを生成します。

検査ロットの確認と結果記録(QA32 / QA11)

QA32で未処理ロットを一覧表示し、QA11で測定値を入力します。why so:購買品の不良を製造前に止めることで、不良品を組み込んだ仕掛品の発生を防ぐためです。逆視点として、受入検査をスキップすると不良が工程の奥深くまで流れ、是正コストが指数関数的に膨らみます

使用決定(UD:Usage Decision)

合格・不合格・条件付合格などを判定し、在庫を「品質検査在庫」から「利用可能在庫」または「ブロック在庫」へ移動します。so what:使用決定を出すまで在庫はMRPに使われないため、検査員の判定遅れが生産遅延に直結します。

STEP 2:工程内検査(製造工程での品質作り込み)

PPの製造指図リリース時に、検査タイプ03が有効なら工程内検査ロットが生成されます。作業手順(ルーティング)に検査特性を紐づけておくと、CO11Nでの作業実績登録と同時に測定値を記録できます。

why so:完成後にしか検査しないと、工程の途中で発生した不良を後戻りできず、仕掛品全体が廃棄になるリスクがあるためです。so what:工程内検査は「最終品質を保証する」のではなく「問題を早期発見して工程を止める」ためにあります。

STEP 3:出荷検査(顧客に渡す前の最終確認)

SDの出荷伝票(VL02N)作成や品目マスタの設定により、出荷検査ロット(検査タイプ10など)が生成されます。出荷検査での合格判定が出ない限り、出荷ピッキングや請求書発行に進めない設定も可能です。

逆視点でいうと、出荷検査を省略すると顧客クレーム→返品→信用失墜という最も高コストな品質問題ルートに直結します。「出荷を止める権限を持つのは品質部門」という業務ルールをSAP上で物理的に強制できるのが、QMモジュールを入れる最大の意味の一つです。

STEP 4:不適合管理(QM通知)

検査で不合格や異常が出た場合、QM01でQM通知(Quality Notification)を起票します。通知タイプは大きく3つ:

  • Q1:仕入先苦情(受入検査の不合格をベンダに通知)
  • Q2:社内苦情(工程内不良を製造部門にフィードバック)
  • Q3:顧客苦情(クレーム対応)

通知には「不具合事象」「原因」「是正処置」「予防処置」を構造化して記録できます。why so:場当たり的な対応ではなく、再発防止までを業務プロセスに組み込むためです。so what:QM通知の内容はFI業務フローで扱う返金処理や、MMでの仕入先評価点数にも自動連携できるため、品質情報を必ずQM01に集約してExcel管理にしないことが重要です。

flowchart LR
  D[不具合発見] --> Q[QM01
通知起票] Q --> C[原因分析] C --> F[是正処置] F --> P[予防処置] P -.->|完了確認| X[通知クローズ]
凡例 必須プロセス -.-> 完了確認(任意タイミング) 英数字コード = Tコード

STEP 5:品質監査・仕入先評価

定期的に検査結果を集計し、仕入先別・工程別の品質スコアを算出します。QA40でワークリストを処理し、MCXAなどの情報システムで不良率の推移を可視化します。

why so:単発の検査結果では「たまたま不良が出た」のか「構造的に品質が悪化している」のかを区別できないためです。so what:仕入先評価点数が低下した取引先には、購買部門と連携して改善要求書を発行する、というPDCAをSAP内で完結できます。

QMモジュール スイムレーン図

flowchart LR
  subgraph 購買
    P1[発注] --> P2[入庫]
  end
  subgraph 品質管理
    Q1[受入検査] --> Q2[使用決定]
    Q2 --> Q3[QM通知]
  end
  subgraph 製造
    M1[製造指図] --> M2[工程内検査]
  end
  P2 --> Q1
  Q2 --> M1
  M2 -.->|不良時| Q3
凡例 必須フロー -.-> 例外時のみ subgraph = 担当部門

よくある疑問(FAQ)

Q1. 検査ロットが自動生成されません。何を確認すべきですか?

A. 品目マスタの「品質管理」ビューで該当する検査タイプ(01/03/04など)がアクティブになっているか、検査計画(QP01)が品目に割り当てられているかを確認してください。この2つが揃っていないと、入庫や指図リリースをしてもロットは生成されません。

Q2. 検査ロットが大量にたまるのを防ぐには?

A. サンプリング手順(QDV1)を全数検査から抜取検査に切り替える、ダイナミックモディフィケーション(実績に応じて検査頻度を自動調整する仕組み)を導入する、の2点が有効です。

Q3. QM通知と不具合報告書(社内文書)はどちらに記録すべき?

A. SAPのQM01に一元化することを強く推奨します。Excelや紙で並行管理すると、是正処置の進捗追跡やトレーサビリティが破綻し、結局「監査の前に転記する」という二重作業が発生します。

Q4. PPやMMが導入済みで、QMだけ後から入れることはできますか?

A. 可能です。ただし品目マスタの「品質管理」ビューを既存品目に追加する作業や、検査計画の整備に相応の工数がかかります。先行モジュールのデータ整備状況により難易度が大きく変わります。

もっと体系的に学びたい人へ

QMは単独で動くことは少なく、MMの受入検査、PPの工程内検査、SDの出荷検査というように、他モジュールと結びついて初めて品質管理として機能するのが特徴です。QMだけを深掘りするより、MM/PP/SDとの接点を含めて全体像を把握するほうが、現場の運用設計にも活かしやすくなります。

そのための導入書として、下記の書籍はSAP全体のモジュール連携を図解で整理してくれているので、品質管理を他モジュールと結びつけて理解したいときの参考書になります。

まとめ

  • QMサイクルは「マスタ整備 → 受入 → 工程内 → 出荷 → 不適合 → 監査」の6フェーズで構成される
  • 検査計画(QP01)・検査特性(QS21)・サンプリング手順(QDV1)の3点セットがないと検査ロットは生まれない
  • 受入検査は不良品を上流で止め、工程内検査は仕掛品ロスを防ぎ、出荷検査は顧客クレームを防ぐ、それぞれ役割が異なる
  • QM通知(QM01)は単なる記録ではなく、原因分析・是正・予防までを構造化する仕組み
  • 検査結果は仕入先評価や品質監査に自動集約され、属人的な品質管理から脱却できる

QMはMM・PP・SDの「裏で品質を担保する」存在であり、単独で見るよりもMM業務フローPP業務フローと接続点を意識して設計することで、はじめて真価を発揮します。

各モジュールの業務フローをより深く理解するには、S/4HANAの全体像を先につかんでおくのが近道です。約2時間の動画で主要機能と特徴を一通り押さえられます。

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