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S/4HANA Cloud 2602リリースのAI新機能まとめ|エラー説明・Smart Helper・Easy Fill

目次

はじめに

2026年第1四半期にリリースされた S/4HANA Cloud Public Edition 2602 は、AI機能の大幅な強化が注目されています。SAPは「AIをビジネスワークフローに直接埋め込む」という方針を掲げており、2602リリースではその具体的な成果が複数登場しました。

本記事では、2602リリースのAI新機能を以下の6つに整理して解説します。

  1. AIエラーメッセージ説明 — エラーの原因と対処法をAIが自動解説
  2. Smart Helper(スマートヘルパー) — 複数ステップの業務を会話で自動実行
  3. Easy Fill — 自然言語でFioriフォームを一括入力
  4. My Home AIパーソナライゼーション — ホーム画面をAIがカスタマイズ提案
  5. Situation Handling AI — 業務例外をAIが検知し対処を推奨
  6. Joule統合 — 会話型AIアシスタントの全体像

なぜこの情報が重要か(why so):これらのAI機能はS/4HANA Cloud Public Editionの標準機能として提供されており、追加開発なしで業務効率化が可能です。「S/4HANAに移行すると何が嬉しいのか」を具体的に示す材料として、コンサルタント・プロジェクトマネージャーにとって把握すべき内容です。


AI機能の全体像

2602リリースのAI機能は、Base AI(無料)Premium AI(有料) の2層構造で提供されています。

含まれる機能費用
Base AIJoule Base、Easy FilterSmart SummarizationEnterprise SearchS/4HANA Cloudライセンスに含まれる
Premium AIエラー説明、Situation Handling、My Homeパーソナライゼーション、Smart Helper、Easy Fillユーザー単位の追加課金 or SAP AI Units

Base AIに含まれる主要機能を補足します。

  • Easy Filter:Fioriアプリのリスト画面で、自然言語で検索条件を入力できる機能(例:「先月の未処理発注」)
  • Smart Summarization:長文テキスト(ノートや説明文)をAIが要約し、要点を素早く把握できる機能
  • Enterprise Search:SAP全体を横断して、自然言語でデータ・アプリ・ドキュメントを検索できる機能
flowchart LR
  subgraph base["Base AI(無料)"]
    B1["Joule Base\n会話型アシスタント"]
    B2["Easy Filter\nスマート検索"]
    B3["Smart\nSummarization"]
    B4["Enterprise\nSearch"]
  end
  subgraph premium["Premium AI(有料)"]
    P1["エラー説明"]
    P2["Smart Helper"]
    P3["Easy Fill"]
    P4["Situation\nHandling AI"]
  end
凡例 [ ] 各AI機能の名称 枠線 Base AI / Premium AI の区分

読者への示唆(so what)Base AIはS/4HANA Cloudのライセンスに含まれており、追加費用なしで利用開始できます。利用開始にはSAP AI利用規約への同意とアクティベーションが必要ですが、技術的なセットアップは不要です。Premium AIは費用対効果を検討した上で段階的に導入するのが一般的です。


① AIエラーメッセージ説明

概要

Fioriアプリでエラーが発生した際、従来はエラーコードと短いメッセージが表示されるだけで、対処法はユーザーが自分で調べる必要がありました。AI エラー説明機能は、エラーメッセージの横に「AIで説明」ボタンが表示され、クリックするとエラーの原因・影響・対処ステップをAIが自動生成します。

動作の仕組み

flowchart LR
  A["① Fioriアプリで\nエラー発生"] --> B["② エラーメッセージ横に\n「AIで説明」ボタン表示"]
  B --> C["③ クリックすると\nSAP Business AIが\nエラーコンテキストを分析"]
  C --> D["④ 原因・影響・\n対処ステップを\n自然言語で表示"]
凡例 処理の順序 [ ] 各ステップの内容
項目内容
ステータスPremium AI(有料)
対象Fioriアプリ上のエラーメッセージ全般
AIが生成する内容エラーの原因説明、業務への影響、具体的な解決ステップ
言語ユーザーのログオン言語に応じて自動翻訳

なぜ重要か(why so):SAPのエラーメッセージは技術的で分かりにくいものが多く、経験の浅いユーザーはエラーを見ただけでは対処できません。この機能により、ヘルプデスクへの問い合わせを削減し、ユーザーの自己解決率を向上させることが期待できます。


② Smart Helper(スマートヘルパー)

概要

Smart Helperは、複数のステップにまたがる業務タスクを、会話形式で自動実行するAIアシスタントです。従来は複数の画面を遷移して行っていた操作を、自然言語で指示するだけで完了できます。

動作の仕組み

flowchart LR
  A["① ユーザーが\n自然言語で指示\n例:「住所変更して」"] --> B["② Smart Helperが\n必要なステップを\n自動特定"]
  B --> C["③ 対話形式で\n必要情報を収集\n「新しい住所は?」"]
  C --> D["④ バックグラウンドで\nAPI呼び出し\nデータ更新実行"]
  D --> E["⑤ 実行結果を\nユーザーに報告"]
凡例 処理の順序 [ ] 各ステップの内容
項目内容
ステータスBeta(2602.3で提供予定、2026年5月)
アクセスMy Home画面から起動可能
特徴複数ステップの業務を会話で完結。画面遷移が不要

読者への示唆(so what):Smart Helperは「Agentic AI(自律型AI)」のSAP版とも言えます。単に質問に答えるだけでなく、ユーザーの代わりにシステム操作を実行する点が従来のチャットボットとは根本的に異なります。Beta段階ですが、SAPが推進するAgentic AI戦略の中核機能として今後拡張が見込まれます。Jouleの開発者向け機能についてはJoule for Developers vs Joule for Consultantsも参照してください。


③ Easy Fill

概要

Easy Fillは、Fiori Elements(SAPが提供するUI標準テンプレート群)ベースのアプリケーションで、自然言語の入力からフォームの複数フィールドを一括で入力する機能です。

動作の仕組み

ステップ内容
Object Pageで「Easy Fill」ボタンをクリック
テキストボックスに変更内容を自然言語で入力(例:「住所を東京都渋谷区に変更」)
AIが入力テキストを解析し、該当するフォームフィールドにマッピング
「Filled Fields」リストに提案値を表示(ユーザーがレビュー可能)
不整合の可能性がある箇所をハイライト表示
ユーザーが確認・承認後、フィールドが更新される

なぜ重要か(why so):SAPのFioriアプリは、Object Pageに多数のセクション・フィールドが存在することがあります。従来は正しいセクションまでスクロールし、対象フィールドを探して入力する必要がありました。Easy Fillは「何を変更したいか」を言葉で伝えるだけで、AIが正しいフィールドを特定して入力してくれるため、データ入力の速度と正確性が向上します。Fiori ElementsのObject PageについてはFiori×OData|FioriアプリがODataをどう使うかで解説しています。


④ My Home AIパーソナライゼーション

概要

My Home(Fiori Launchpadのホーム画面)に「Add Content」AIボタンが追加され、自然言語で「何をしたいか」を伝えるだけで、最適なアプリやInsights Tileを提案してくれます。

項目内容
ステータスGA(Premium AI)。2508でBetaだったものが正式リリース
できることアプリの追加提案、Insights Tileの推奨、TコードやFiori IDでのアプリ起動
入力例「購買発注の承認状況を確認したい」→ 関連アプリとタイルを提案

読者への示唆(so what):SAPには数千のFioriアプリがあり、新しいユーザーは「どのアプリを使えばいいか」を見つけるのが大変です。AIパーソナライゼーションにより、自分の業務に必要なアプリを効率的に発見・配置できるようになります。

活用のヒント:導入初期にユーザーへMy Homeのカスタマイズ方法を案内すると、Fioriアプリの発見コストが大幅に下がります。特に、業務ロール別の「おすすめプロンプト例」を事前に準備しておくと効果的です。


⑤ Situation Handling AI

概要

Situation Handling(状況管理)は、業務上の例外的な状況をシステムが自動検知し、ユーザーに通知する仕組みです。2602では、検知した状況に対してAIが対処法を動的に推奨する機能が追加されました。

flowchart LR
  A["① 業務例外を検知\n例: 納期遅延リスク"] --> B["② ユーザーに\n状況を通知"]
  B --> C["③ AIが過去データ・\nベストプラクティスを\n分析"]
  C --> D["④ 対処ステップを\nコンテキストに応じて\n動的に推奨"]
  D --> E["⑤ UIを動的に\n適応させ\nガイド付きで解決"]
凡例 処理の順序 [ ] 各ステップの内容
項目内容
ステータス2602.1(2026年3月12日)でGA予定
AIの役割履歴データとベストプラクティスに基づき、状況に応じた対処法を生成
特徴UIを動的に適応させ、ユーザーを解決ステップへガイド

なぜ重要か(why so):業務例外の対処は、従来は担当者の経験と判断に依存していました。AIが過去データとベストプラクティスに基づいて対処法を推奨することで、属人的な判断を標準化し、対処の速度と精度を向上させます。特に経験の浅い担当者にとって、ガイド付きの解決ステップは業務の安定性に直結します。


⑥ Joule統合

概要

Jouleは、S/4HANA Cloud全体に統合された会話型AIアシスタントです。2602時点では500以上のビジネスシナリオをサポートしています。

Jouleの4つの対話タイプ

タイプ内容
Transactionalデータの作成・更新・参照を会話で実行「発注番号4500000001の状況を教えて」
Navigational適切なFioriアプリに直接ナビゲート「購買発注の承認画面を開いて」
Informational業務データの要約・質問への回答「今月の未払い請求書の合計は?」
Analyticalデータ分析を会話で実行「仕入先別の発注金額を比較して」
項目内容
対応領域購買管理、財務会計、販売管理、サービス管理
アクセスWebブラウザ(デスクトップ)、SAP Mobile Start(モバイル)
Base/PremiumBase Jouleは無料。Premium Jouleは追加課金

購買管理の業務フローについてはSAP MMモジュール 業務フロー完全解説、財務会計についてはSAP FIモジュール 業務フロー完全解説で解説しています。


Agentic AI エージェント

2602リリースの注目点の一つが、業務領域ごとに特化した「AIエージェント」の登場です。Smart Helperが汎用的なタスク自動化を担うのに対し、AIエージェントは特定の業務に特化した自律型AIとして動作します。

エージェントステータス内容
Accounting Accruals AgentGA会計方針を解釈し、過去データを分析して経過勘定の計上提案を自動生成。各計算の根拠も提示
International Trade Classification AgentGA製品特性と貿易規制を照合し、関税番号・品目コードを提案。反復的な分類作業を最大50%削減
Dispute Resolution AgentBeta請求書の明細と契約条件を分析し、不一致を特定。解決パスを提案
Project Setup AgentBeta参照プロジェクトに基づき新規プロジェクトを作成、主要リソースの割り当て、タイムブッキング用のリリースまでを支援

なぜAgentic AIが重要か(why so):従来のAIは「質問に答える」「データを分析する」という受動的な役割でしたが、Agentic AIはビジネスシステム内で自律的にアクションを実行します。経過勘定の計上提案を自動生成し、関税分類を自動判定するなど、専門知識が必要な業務をAIが代行する時代が始まっています。


その他のAI機能

2602リリースにはUI系・エージェント系以外にも、業務領域ごとのAI機能が追加されています。

領域機能内容
財務Financial Business Insights with GenAIレビューブックレットの財務データをAIが要約・分析
販売自動受注作成顧客からの問い合わせをAIが処理し、受注を自動作成
販売AIドリブン自動補完過去データ・MLに基づき受注入力フィールドを推奨
経理Cash Application自動化入金と未消込債権のAIマッチング
全般Predictive Analytics財務・サプライチェーン全般への予測分析適用

これらの機能はそれぞれの業務領域に深く組み込まれており、UI上では意識せずにAIの恩恵を受けられる設計になっています。特にCash Application(入金消込)の自動化は、経理部門の月次決算スピードに直結する機能として注目度が高いです。


よくある疑問

Q1. AI機能を使うために追加のインフラ構築は必要ですか?

いいえ。S/4HANA Cloud Public Editionでは、SAP AI利用規約への同意とアクティベーションだけで利用開始できます。AIの実行基盤はSAP BTP(Business Technology Platform:SAPのクラウド開発・統合基盤)上で提供されるため、顧客側でのインフラ構築は不要です。S/4HANA Cloudの導入事例については大手製造業がS/4HANA Cloudで業務効率化を実現も参照してください。

Q2. On-PremiseのS/4HANAでもこれらのAI機能は使えますか?

現時点では、AI機能の大部分はS/4HANA Cloud Public Editionのみで提供されています。SAPの「クラウドファーストでAIイノベーションを提供する」という方針に基づき、Cloud環境が優先されます。On-Premiseでの提供は限定的です。SAPの基礎知識についてはSAP初心者が最初に学ぶべき5つのこともご覧ください。

Q3. Beta機能を本番環境で使っても大丈夫ですか?

Beta機能は本番環境でも有効化できますが、機能の変更・廃止がありえる点に注意が必要です。業務クリティカルなプロセスにBeta機能を組み込むことは避け、GA(一般提供)を待つのが安全です。

Q4. AIが生成した対処法や入力値は必ず正しいですか?

AIの出力はあくまで提案であり、最終的な確認・承認はユーザーが行います。Easy Fillでは「Filled Fields」リストで提案値をレビューでき、エラー説明でも対処法は参考情報として提供されます。


まとめ

  • S/4HANA Cloud 2602では、Base AI(無料)とPremium AI(有料) の2層構造でAI機能が提供されている
  • AIエラーメッセージ説明により、SAPの技術的なエラーメッセージを自然言語で理解でき、ユーザーの自己解決率が向上する
  • Smart Helperは複数ステップの業務を会話で自動実行する「Agentic AI」の実装であり、画面遷移を大幅に削減する
  • Easy Fillは自然言語入力からFioriフォームの複数フィールドを一括入力し、データ入力の速度と正確性を向上させる
  • Situation Handling AIは業務例外を検知し、AIが過去データに基づいて対処法を動的に推奨する
  • Jouleは500以上のビジネスシナリオをサポートする会話型AIアシスタントであり、Transactional・Navigational・Informational・Analyticalの4タイプの対話を提供する
  • AI機能の利用開始に追加インフラ構築は不要で、SAP AI利用規約への同意とアクティベーションのみで利用可能
  • S/4HANA Cloudの開発戦略であるClean CoreについてはSAP Clean Core戦略とは?で解説しています。
  • こうしたAIトレンドに強いSAPコンサルタントへのキャリアチェンジ体験談はSIerからSAPコンサルへの転身記も参考にどうぞ。

2602のAI機能はS/4HANA Cloud上で動作するため、そもそもECCとS/4HANAで何が変わったのかを先に押さえておくと理解がスムーズです。実際のS/4HANA操作画面つきで新旧の違いを約2時間で解説したUdemy講座があります。

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