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委託販売とは|SAP SDの顧客預託在庫フローを実務目線で解説

目次

一言で

委託販売とは、商品を顧客の倉庫に預けたまま所有権は自社に残し、顧客が実際に消費・販売した時点ではじめて売上計上する販売形態です。SAPではCS(Customer Consignment:顧客預託)と呼び、特殊在庫カテゴリ「W」で管理します。


なぜ委託販売が必要か

通常の販売では「出荷した時点」で所有権が顧客に移り、売上が立ちます。しかし小売・医薬品・自動車部品などの業界では、「とりあえず置いておいて、売れた分だけ請求してほしい」というニーズが強くあります。

委託販売がないと、次の問題が起きます。

  • 顧客が在庫リスクを全て抱えるため、大量仕入れを躊躇する
  • 売れ残りの返品交渉が毎回発生し、事務負荷が増える
  • メーカー側は顧客倉庫の在庫量を把握できず、補充タイミングを逃す

逆に委託販売スキームを正しく設計すれば、顧客の棚を確保しつつ在庫可視性を保ち、消費ベースで自動的に請求を回せます。


全体像の位置づけ

flowchart LR
  SO[自社在庫] -->|KB 補充| CS[顧客預託在庫
特殊在庫W] CS -->|KE 引出/消費| INV[売上計上
請求伝票] CS -.->|KA 返送| SO INV -.->|KR 返品| CS style CS fill:#f0f6ff,stroke:#0053F4,stroke-width:2px,color:#0053F4
凡例 必須フロー -.-> 任意(発生した時のみ) KB/KE/KA/KR = 受注伝票タイプ この記事のテーマ

SAPの委託販売は4つのトランザクション(KB/KE/KA/KR)で構成され、それぞれが物の動きと会計処理に対応しています。


具体例:医薬品メーカーB社の場合

B社は病院C院内に預託在庫を置き、C院が患者に使用した分だけ請求する契約を結びました。

ステップ伝票タイプ内容会計影響
1. 補充KB(Consignment Fill-Up)B社倉庫→C院預託棚に10箱移送在庫の内訳変更のみ、売上なし
2. 引出KE(Consignment Issue)C院が3箱使用した実績を報告売上3箱分を計上、売掛金発生
3. 返送KA(Consignment Pick-Up)使用期限切れ2箱をB社倉庫に戻す在庫の内訳変更のみ
4. 返品KR(Consignment Return)引出済1箱の不良でC院預託棚に戻す売上取消、貸方伝票発行

ポイントはKBの時点では売上が立たないこと。所有権がB社にある以上、会計上はB社の資産として残り続けます。


技術的な位置づけ

  • SD(Sales and Distribution:販売管理)モジュールの特殊販売プロセス
  • 特殊在庫カテゴリ「W」(Customer Consignment Stock)で管理
  • MM側では特殊在庫「K」(Vendor Consignment:仕入先預託)と対になる概念
  • 在庫は評価対象だが、B/S(Balance Sheet:貸借対照表)上は「顧客預託在庫」として区分計上される

カスタマイズパス(IMG:Implementation Guide、SAPの設定ガイド)

SPRO > 販売管理 > 販売 > 販売伝票 > 販売伝票ヘッダ > 販売伝票タイプの定義(KB/KE/KA/KR)
SPRO > 販売管理 > 販売 > 販売伝票 > 販売伝票明細 > 明細カテゴリの定義(KBN/KEN/KAN/KRN)
SPRO > 販売管理 > 基本機能 > 勘定コード割当 > 勘定コード割当の設定

主要テーブル

テーブル内容
MSKU顧客預託在庫(特殊在庫W)
VBAK/VBAP受注伝票ヘッダ/明細
LIKP/LIPS出荷伝票ヘッダ/明細

S/4HANAでの変更点

  • S/4HANAでも委託販売の基本スキーム(KB/KE/KA/KR)は維持されている
  • 在庫テーブルがMSKU→MATDOC(Material Document:統合在庫テーブル)に統合され、リアルタイムに顧客預託残高を参照可能
  • SAP Fiori App「顧客預託在庫の管理」で、顧客別・品目別の預託残高を即座に可視化できるように
  • Embedded Analyticsで消費傾向(KE頻度)をリアルタイム分析し、補充タイミングを最適化可能

現場でよくある誤解

  • 「KBで出荷した時点で売上が立つ」と誤解されがち。実際はKE(引出)ではじめて売上計上
  • 「委託在庫は顧客の資産」と思いがちだが、所有権は自社に残り続けるため自社B/S上の在庫資産
  • KAとKRは似て非なるもの。KA=まだ消費されていない預託品の戻し、KR=既に消費されたが不具合で返される
  • 棚卸の対象は自社。顧客倉庫まで行って実地棚卸するか、顧客の在庫報告を信頼するかの運用設計が必要

実務での設計の勘所

委託販売を導入する際は次の観点で設計します。

  • 消費報告の頻度は?(日次/週次/月次)→ KE起票の自動化レベルを決める
  • 預託在庫の棚卸は誰が行うか?→ 顧客側の協力範囲を契約で明文化
  • 返品(KR)時の品質判定ルール→ 在庫評価上の廃棄損計上ルールとセット
  • 顧客別に価格を変える場合→ 条件レコードを顧客×品目で設計
  • EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)連携で消費報告を自動化する場合のメッセージタイプ選定

「いつ売上が立つか」を顧客と契約段階で合意しておくことが最重要です。ここがズレると月次決算で毎回揉めます。


トラブル事例

  • KB出荷後に顧客側で在庫が行方不明になり、KE起票できず自社在庫として残り続ける
  • KE(消費)報告が月末に集中し、売上計上が特定月に偏って経営判断を誤らせる
  • 特殊在庫Wの評価エリア設定漏れで、B/S上に預託在庫が見えない状態に
  • KRでの返品処理を通常返品(RE)と混同し、在庫ステータスが狂う

FAQ

Q. 仕入先預託在庫(MM側のK)と何が違いますか?
視点が逆です。顧客預託(W)は「自社が顧客倉庫に置いている在庫」、仕入先預託(K)は「仕入先が自社倉庫に置いている在庫」。どちらも「置いている側が所有権を持つ」という原則は同じです。

Q. KE引出時に価格はどう決まりますか?
KE起票時点の条件レコード(価格マスタ)に基づいて決定されます。KB時点の価格ではないため、価格改定が挟まった場合に注意が必要です。

Q. 月末に顧客が消費報告を出し忘れたらどうなりますか?
翌月扱いとなり、当月の売上に含まれません。実務では月次締め前に必ず消費データを突合するルールを設けるか、EDI自動連携で毎日吸い上げる運用が一般的です。


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