一言で
移動タイプとは、SAPにおける在庫のすべての動きを分類する3桁の識別コードです。入庫・出庫・移送・調整など、在庫に関わるあらゆる取引は必ず移動タイプで記録されます。
なぜ必要か
SAPでは在庫の動きは非常に多岐にわたります。発注からの入庫、生産オーダーへの原料投入、プラント間の移送、棚卸差異の調整など、同じ「在庫が減る」動きでも業務的な意味はまったく異なります。これらを一つひとつ人が勘定科目を選んで仕訳することは現実的ではありません。
そこで移動タイプが在庫変動の分類キーとして機能し、勘定決定ロジックを経由して会計伝票を自動生成する仕組みになっています。移動タイプがなければ、MM(Materials Management:在庫購買管理)とFI(Financial Accounting:財務会計)を繋ぐ自動仕訳の仕組みが成り立たず、毎日数千件の在庫取引を手動で仕訳する必要が生じます。
関係図:移動タイプから会計伝票まで
flowchart LR
subgraph mm["MM側(在庫管理)"]
A["在庫取引
MIGO入力"] --> B["移動タイプ
例:101"]
end
subgraph det["勘定決定ロジック"]
B --> C["評価クラス
+取引キー"]
C --> D["勘定決定
OBYC"]
end
subgraph fi["FI側(会計)"]
D --> E["G/L勘定
自動選択"]
E --> F["会計伝票
自動生成"]
end
style B fill:#f0f6ff,stroke:#0053F4,stroke-width:2px,color:#0053F4主要な標準コード
| コード | 意味 |
|---|---|
| 101 | 発注からの入庫 |
| 102 | 入庫のキャンセル |
| 122 | 仕入先への返品 |
| 201 | 原価センタ出庫 |
| 261 | オーダー消費 |
| 311 | 保管場所間の移動 |
| 351 | 在庫プラント間移送 |
| 501 | 発注なし入庫 |
| 601 | 出荷(販売オーダーから) |
| 701/702 | 棚卸差異調整 |
具体例:製造業A社のケース
架空の電子部品メーカーA社では、以下のように標準移動タイプを運用しています。
- 仕入先からの部品入庫:101(発注ベース)
- 生産ラインへの部品投入:261(オーダー消費)
- 完成品の入庫:101(生産オーダーから)
- 得意先への出荷:601(出荷伝票から自動)
- 月末棚卸差異:701/702
この運用により、毎月約8,000件の在庫取引がすべて自動で会計伝票化され、経理部門は例外処理(差異調整・返品)のみを確認すれば済んでいます。
技術的な位置づけ
- MB1A/MB1B/MB1C/MIGOトランザクションで指定
- 移動タイプ → 勘定決定(G/L(General Ledger:総勘定元帳)勘定の自動選択)→ 会計伝票の自動生成 という流れ
- 移動タイプは「受払ルール」として機能し、在庫の増減・金額転記を一意に決める
- 設定テーブルは T156(移動タイプ本体)、T156T(テキスト)、T156S(勘定決定との連携)
- カスタマイジングは OMJJ で実施
S/4HANAでの変更点
S/4HANAでは会計伝票の格納先がBKPF/BSEGからUniversal Journal(ACDOCA)に統合されましたが、移動タイプそのものの概念・コード体系は従来通りです。変わったのはMMとFIの連携がよりリアルタイム・一元化された点で、移動タイプから生成される仕訳は即座にACDOCAに登録され、管理会計・財務会計・連結が同一テーブルで扱えるようになりました。MIGOの代わりにFioriアプリ(Post Goods Movement)が標準UIになっている点にも注意が必要です。
自作移動タイプ
標準で不足する場合はコピーしてカスタム移動タイプを作成できますが、できるだけ標準を流用するのが推奨です。カスタム移動タイプは将来のアップグレード時にトラブルを招きやすいからです。
詳細な解説はMM移動タイプ完全ガイドも参照してください。
現場でよくある誤解
- 「101 = 入庫」と単純に覚えがちだが、発注起因の入庫であることがポイント。501(発注なし入庫)とは会計処理が異なる
- 反対仕訳(102、262等)の存在を忘れやすい
- 移動タイプのエラーは根本原因が勘定決定ルール側にあることが多い
トラブル事例
- 移動タイプと勘定決定の対応漏れで伝票転記エラー
- 移動タイプを誤って業務に使い「誤伝票」が大量発生
- カスタム移動タイプの設定漏れで一部の転記が間違った勘定に飛ぶ
FAQ
Q1. 移動タイプと特殊在庫区分の違いは? 移動タイプは「何の動きか」を表し、特殊在庫区分(E、K、Qなど)は「誰の在庫か(顧客受託・仕入先預かり・プロジェクト在庫)」を表します。併用して使う項目です。
Q2. 移動タイプを間違えて転記した場合、取り消せますか? 反対仕訳の移動タイプ(101に対する102など)でキャンセル転記できます。ただしロットや原価への影響があるため、発生した当月中に対応することが望ましいです。
Q3. 独自の移動タイプは何番台で作るべきですか? 慣例として900番台がカスタム枠として使われることが多いですが、公式な予約番号ではないため、プロジェクトの命名規約に従って決めてください。
関連する用語
関連用語
本用語と一緒に押さえておくと理解が深まる用語をまとめます。