一言で
直送(Third-Party Order)とは、自社が受注した商品を自社倉庫を経由せず、仕入先から顧客へ直接配送してもらう販売形態です。SAPでは明細カテゴリTAS(Third-Party Item)を使い、受注と発注を自動連動させて処理します。
なぜ直送が必要か
全商品を自社倉庫に抱えるのは非効率です。特にロングテール商品・大型機械・海外調達品などは、在庫リスクと物流コストを仕入先に肩代わりしてもらいたいというニーズがあります。
直送がないと、次の問題が起きます。
- 自社倉庫に通過在庫を一旦置くための入出庫コスト・二重ハンドリングが発生
- 倉庫容量を超える大型品目を扱えない
- 仕入先→自社→顧客のリードタイムが長くなり、納期競争力を失う
- 輸入品で関税・通関を自社が引き受ける必要が出てくる
直送スキームを使えば、自社は「伝票上の販売」と「仕入先への発注」だけを管理し、物理的な入出庫は一切発生しません。
全体像の位置づけ
flowchart LR C[顧客] -->|1 注文| SO[自社
受注VA01 TAS] SO -->|2 自動発注| PO[購買発注
ME21N] PO -->|3 発注| V[仕入先] V -.->|4 直送| C V -->|5 請求書| SO SO -->|6 顧客請求| C style SO fill:#f0f6ff,stroke:#0053F4,stroke-width:2px,color:#0053F4
特徴は商品は自社を通らず、伝票だけが自社を通る三角貿易構造です。受注と発注は1対1で連動します。
具体例:電子部品商社D社の場合
D社は半導体を扱う商社で、在庫は一切持たず顧客E社の注文を受けて仕入先F社から直送させています。
| ステップ | Tコード | 担当 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 1. 受注入力 | VA01 | D社営業 | E社から100個受注、明細カテゴリTASで登録 |
| 2. 発注自動生成 | ME21N | D社購買(自動) | F社向けに100個発注を自動起票 |
| 3. 仕入先直送 | - | F社 | F社→E社倉庫に直接配送 |
| 4. 仕入先請求 | MIRO | D社経理 | F社からの請求書を計上 |
| 5. 顧客請求 | VF01 | D社経理 | E社向けに売上請求書を発行 |
| 6. 利益認識 | - | D社 | 売上-仕入=マージンを計上 |
ポイントはステップ4(仕入先請求照合)が売上計上のトリガになること。通常は出荷で売上が立ちますが、直送では物理出荷が自社に関係ないため仕入先請求時点を基準にします。
技術的な位置づけ
- SD(Sales and Distribution:販売管理)とMM(Materials Management:在庫購買管理)をまたぐ統合プロセス
- 明細カテゴリ「TAS」(Third-Party Item)を受注明細に設定
- スケジュール行カテゴリ「CS」(Third-Party)が発注要求(PR:Purchase Requisition)を自動生成
- 特殊在庫カテゴリ「なし」(自社在庫として計上しない)
- 売上計上タイミングは仕入先請求照合ベース(MIGO入庫は不要)
カスタマイズパス(IMG:Implementation Guide、SAPの設定ガイド)
SPRO > 販売管理 > 販売 > 販売伝票 > 販売伝票明細 > 明細カテゴリの定義(TAS)
SPRO > 販売管理 > 販売 > 販売伝票 > スケジュール行 > スケジュール行カテゴリの定義(CS)
SPRO > 品目マスタ > 販売ビュー > 明細カテゴリグループの設定(BANS)
主要テーブル
| テーブル | 内容 |
|---|---|
| VBAK/VBAP | 受注伝票ヘッダ/明細(TAS明細を含む) |
| EBAN | 購買依頼(PR) |
| EKKO/EKPO | 購買発注ヘッダ/明細 |
S/4HANAでの変更点
- S/4HANAでも直送の基本フロー(受注→自動PR→発注→仕入先請求→顧客請求)は維持
- SAP Fiori App「売上利益率分析」で直送取引の粗利をリアルタイム可視化できるように
- Advanced ATPで仕入先リードタイムを考慮した納期回答が可能
- 統計的在庫転記オプションで、直送でも在庫の移動平均を統計的に記録する構成が可能に
現場でよくある誤解
- 「直送=自社倉庫を通す必要がないから簡単」と思われがちだが、仕入先請求の精度管理が難しい
- TAS明細は出荷伝票(Delivery)を生成しない。出荷ベースで請求を作ろうとしても動かない
- 仕入先請求前に顧客請求を出そうとすると、原価が確定せず粗利計算が歪む
- 直送品は在庫評価対象外のため、品目マスタの評価クラス設定に注意
実務での設計の勘所
直送スキーム設計では次の観点で切り分けます。
- 売上計上タイミングは「仕入先請求照合時」か「統計的入庫時」か
- 仕入先の出荷実績をどう把握するか(ASN:Advance Shipping Notification など)
- 価格条件:受注価格と発注価格の関係(マージン固定か絶対額か)
- 不着・破損時のクレーム処理フロー
- 輸出入取引の場合のインボイス・関税・インコタームズ設定
直送は「在庫を持たないから楽」ではなく、「原価が確定するまで売上を立てられない」という特殊な会計タイミング管理が必要です。
トラブル事例
- TAS明細の品目マスタ設定を通常在庫品と兼用し、自動発注が生成されないトラブル
- 仕入先請求の到着遅延で月次決算に売上が間に合わず、翌月繰越
- 発注数量と受注数量がずれた場合の残数管理が属人化し、過剰請求が発生
- 仕入先からの出荷実績連携漏れで顧客に納期回答できず、クレーム多発
FAQ
Q. 直送と「個別受注生産」は何が違いますか?
個別受注生産(MTO:Make-to-Order)は自社が生産する点が違います。直送はあくまで購買ベース、MTOは生産ベース。どちらも受注ごとに個別手配する点は共通しますが、上流プロセスが購買か生産かで大きく異なります。
Q. 直送で顧客が返品してきたらどうなりますか?
通常は仕入先に直接返送してもらう「リターンtoサプライヤー」スキームを設計します。SAPでは返品受注(RE)と連動した購買返品伝票を起票します。
Q. 部分出荷に対応できますか?
できます。受注1行に対して仕入先側が複数回に分けて出荷した場合、仕入先請求も複数回起票され、顧客請求も分割可能です。ただし突合が複雑化するので運用ルールの明確化が必要です。
関連する用語
関連用語
本用語と一緒に押さえておくと理解が深まる用語をまとめます。